仙台高等裁判所 昭和25年(う)604号 判決
原審第一回公判調書に依れば、立会の検察官は起訴状記載の第一(2)(3)の事実については所謂冒頭陳述をしているけれども、爾余の事実については冒頭陳述を為すことなく、直ちに証拠の取調を求めたのに、訴訟関係人に於て何等の異議もなく、その請求に係る証拠の取調の決定があつて、取調が施行されたものであることが認められるから、訴因第一の(2)(3)以外の事実については、刑事訴訟法第二百九十六条に違反して訴訟手続が進められたものであることは所論の通りである。しかし検察官の所謂冒頭陳述は新刑事訴訟法では裁判官は事件の詳細に通じないで法廷に臨むものであるから、先づ以て証拠調の冒頭において、検察官より立証方針を明らかにすることが爾後の手続の進行上必要とされたからである。従つて所謂冒頭陳述を為すことなくして検察官が直ちに証拠の取調を求めたとしても、手続の進行上何等の支障なく、且つ被告人の防禦にも何等の影響がない場合には、その手続違背は判決に影響を及ぼさないものといわねばならない。これを本件について見るに、公訴事実はいづれも事案が複雑ではないのであつて検察官が公訴事実の一部につき所謂冒頭陳述を為すことなくして証拠の取調を請求したのに対し、訴訟関係人に於て何等の異議もなく訴訟手続が進められているし又爾後の手続進行の経過から見ても、その為に手続進行上何等かの支障があつたものとは認められない。而も右冒頭陳述の一部を省略した為に被告人の防禦に不利益を来したと認めらるべき点は毫末もないのであるから、右の違背は本件判決に影響を及ぼすものではないといわねばならない。